Gallery 旅情 No.24
クメールの青空
シェムリアップ (カンボジア)  2002年11月 フジプロビア35mm  Siem Reap (Cambodia)
 今は博物館となっている、プノンペンのトゥール・スレン元収容所で、数少ない生き残りの一人、バンナースさんの本を買った。英語で綴られた収容所の日々は、何が起きているか判らぬ中の、底知れぬ恐怖に包まれてはいるものの、不思議なことに、ポルポトへの怒りが、以外に形になっていなかった。怒りの感情というのは、イメージとして敵の像が心につくられるまでは、焦点を結ばないものなのだろうか。それともそのように思えたのは、単に彼の言葉を英語に翻訳したゆえの印象か…。それとも、それとも、それがこののどかなカンボジアの風土に育った、心の姿なのだろうか。牛を引いた青年を見下ろすクメールの空は、そんな時代を知らぬとでも言いだしそうに、青く澄んでいた。